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阿波おどり考 |
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ぶんぶんぶん -
紀行
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福代裕康 踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々……。
「よしこの節」の囃唄でおなじみの阿波おどりは、いまや世界に進出している。
昨夏、阿波おどりを徳島市に見る機会を得た。本場の阿波おどりに接してみて、なるほど、世界に進出するだけのことはあるなと思った。「歴史は足にて知るべきものなり」という。これは、江戸時代に『東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)」を著述した秋田孝季のいったことばであるが、まさにそのことを体験した思いだった。
阿波おどりの起源については、蜂須賀家政が天正十五年(一五七八)に徳島城を完成させたとき、無礼講で町人たちがお祝いに城内を踊り回ったことによると観光パンフレットなどにある。また、精霊踊りであったものから発展したという説もある。
いずれにしても、染料としての藍で経済力をもった阿波の藍商人が、踊りを発展させ、豪華なものにした。藍は肥沃な土地でないと育たない。阿波の北方といわれる吉野川流域が、日本最大の藍栽培地帯となったのは、吉野川が氾濫してもたらす肥沃な土壌のおかげである。元禄時代に全国的に木綿が普及し、その染料として藍の需要が高まり、阿波の藍商人は巨額の富を得たのである。
それはちょうど、ナイル川とピラミッドの関係に似ている。ナイル川が毎年定期的に氾濫し、下流地帯に肥沃な土壌を形成、豊かな実りをもたらせた結果、古代エジプト王朝を繁栄させた。それがあのピラミッド群につながったように、阿波おどりは、富裕な藍商人を生み出した四国三郎といわれる吉野川と深い関係があったことになる。
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ポテトチップスの午後 |
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ぶんぶんぶん -
小説
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高島 平 マンモス団地の脇にある公園は、日曜日の午後にも関らず、いつもよりは閑散としていた。ブランコに乗っている幼児が、その母親らしい女に背中を押され、キャッキャッと声をあげているほかは、二人の老婆がベンチに腰かけてスナック菓子の袋を片手に、何やら世間話をしている程度だ。
「平和なものだ……」
服部貫一は久々の休日を公園の散歩でも楽しもうと、ブラブラ歩いていた。
老婆たちが座っているベンチの前を通ろうとしたときだった。老婆の手からスナック菓子の袋が力サッと音を立てて、貫一の歩調にぴったり合わせたように落ちた。
あっ、と思った瞬間、お菓子は無残にも貫一のスニーカーの下敷きになってグジャッと悲鳴をあげ、眠たげな午後の空気に細い亀裂が走った。
袋の中身は半分ほど粉々になっていた。
「ああ、おばあちゃん、ごめんね」
貫一は菓子袋を拾い上げ、老婆の一人に渡した。
老婆は無言のまま、手渡されたポテトチップスの残骸が入った袋をうらめしそうに見ていた。
もう一人の老婆が貫一を見上げて、歯のない口でニャッと笑い、貫一のズボンの股あたりを雛くちゃの指で引っ張った。貫一はその手を払いのけたい衝動にかられたが、思いとどまって少し後ずさりしながら老婆の手を軽く握り返し、そのまま愛想笑いをしてやり過ごした。
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爪 |
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ぶんぶんぶん -
小説
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桐生たう 新しい仕事は悪くなかった。そうでも思わなければ仕方がない。全てを失って全てが新しく、それがどんなものでも私は受け入れなければならなかった。
引っ越し先にはまだ荷物は届いていなかった。私は家の中を見て回った。床は薄陽を映していてうるさく靴を鳴らした。寝室を兼ねた書斎は狭く、机は備え付けの家具にしては上質すぎるように思えた。使い込まれた感じで小さな傷が幾つもあり、その一つ一つが色濃く浮き出ている。この机でどれだけの人が本を読み、趣味に没頭してきたのだろうか。しかし私にとってここは眠るための部屋でしかなかった。
私は椅子に座り煙草に火を点けた。机の上は磨きあげられていて、これから荷物で埋め尽くされてしまう事が残念に思えた。以前ここに座っていた彼らに整頓してくれる相手はいたのだろうか。
引き出しを一つ一つ開けたみた。木の擦れる感触が指に滑らかに伝わる。きちんと蝋が塗られているのだろう。私は中央の引き出しを開けた。何もないはずのそこは、一冊のノートと小さな灰皿が入っていた。私は灰皿を取り出し煙草をもみ消した。
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ウイスキーが、お好きでしょ/石川さゆり |
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Far night(夜の翼)/南佳孝 |
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こんな気持ちのまま.../浜田省吾 |
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花言葉/古井戸 |
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渡良瀬物語 -
渡良瀬物語
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どんな芝居だったか覚えていない。 地方都市の小さな劇団が年に二回行う公演の千秋楽、秋の夜、 打ち上げの宴席は連日続いていた不安と緊張の舞台から解放されにぎやかだった。 確か雨が少し降っていたその夜、樸が店の出口で貴女に渡した花束は、舞台を飾った色彩だ。 |
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猫にはカツオブシ |
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ぶんぶんぶん -
小説
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硬結田信樹(かたゆたしのき) 我が家の猫は、たぶん雑種だ。路傍のダンボール、よくある捨てられ方で雨に濡れていたのを、僕が拾ってきた。高価でもなんでもない。だからはじめはその電話を、なにかの冗談だと思った。
鼻をつまんでいることが想像できるあきらかな作り声が、こういった。 「お宅の猫を預かっている。返して欲しくば俺のいう通りにしろ。今から二四時間以内に鰹節を五百本用意して、応接間のテーブルの上に積んでおけ。それが身代金だ。取り引き方法は、また追って連絡する」
夜になって会社から帰ってきたとうさんにこのことをいうと、とうさんの目も点になった.。でも現実に猫……名前はデンスケ……は、三日ほど前からいなくなってしまっていた。だからとうさんは電話を信じたようだった。
「また連絡するっていってたから、警察に知らせて逆探知をしてもらおうよ」
僕の提案に大きく頷くと、とうさんは早速110番した。ただ、猫がさらわれたくらいのことで刑事さんが来てくれるなど、期待しないほうがいいだろう、とは僕も思っていた。僕だってもう中学生、その程度の常識はある。
案の定、電話を切ったとうさんは落胆の溜め息をついた。
「逆探知というのは、裁判官の令状がいるんだそうだよ。プライバシーに関わることだから、滅多なことでは許可にならないらしい。猫の誘拐では無理だというんだ。まあでも、悪質ないたずらには違いないから、刑事さんを寄越すそうだ」
刑事さんが来るまで、とうさんは苛立っていた。デンスケを拾ってきたのは僕だけど、とうさんのほうがずっと可愛がっていた。心配なんだろう。
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森で |
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ぶんぶんぶん -
小説
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高柳あきら それは、蒼く蒼く、深い深い森の夜。月光も凍てつく森に、彼はやってきました。 私はその夜、初めて彼を見ました。 もしかしたら、彼はもうずうっと前からこの森に足を運んでいたのかもしれません。でも私にはわかりませんでした。一日も早くさなぎになりたくて、夢中で樹液を吸う毎日だったのですから。
月の光は不思議です。その夜は今までに見たことのないほどの、白く透きとおった光。何か信じられないようなことが起こったとしても、素直に受けとめられそうでした。(例えば私が白鳥になってしまうとか!) そんな夜、私はさなぎになりました。そして彼の姿に初めて気がついたのです。
彼はゆっくりと歩いて行きます。真っ白いキャンバスを抱えて、草を柔らかな音で踏みしめながら。そして(まさにそこが運命の場所であるかのように)立ち止まると、丁寧にキャンバスを立てました。 夜の森に白いキャンバス。まるで月がそこだけを照らしているような、そうでなければ、キャンバスが月光を吸い込んでいるかのようでした。 彼はぐるっと一回り、森を見渡しました。もちろん私に気づくはずなどありません。広い森の中のちっぽけな私。手を動かすことも足を動かすこともできない、私はさなぎ。 |
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デジタル三国志 |
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ぶんぶんぶん -
小説
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ハロルド坂田●前号までのあらすじ 写植屋一筋三十年、精力絶倫の大塚利夫と真面目で無欲なグラフィックデザイナー山ノ内四郎、その先輩の坂上龍一の三人は渋谷のサウナ『ピーチプラザ』で兄 弟の�ちぎり�を結ぶ。出版、印刷業界に吹き荒れるデジタルの嵐を乗りきるために。しかし、デジタル革命でズタズタになった人間関係は予想外の展開となっ て行く。 第3章◎不吉な予感 南青山の事務所に着くと、アシスタントデザイナーの荒木百合子が掃除をしているところだった。 「いやに早いねェ、どうしたの」坂上は部屋の時計を見上げながら言った。8時 分だ。(いつもは 時近くにならないと出てこない荒木が今の時間に掃除だなんて) 「社長、昨日はすいませんでした、赤目印刷の大島さんが原稿を取りに来たので渡しておきました」 荒木はいつもの元気な声で言った。(そう言えば昨日の夕方、出力センターにそのデータを渡した後、帰り道にサウナへ行ったんだっけ)坂上は『ピーチプラザ』での大塚、山ノ内との兄弟の�ちぎり�ですっかり昨日の仕事を忘れていた。 |
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高級食品るさんちまん |
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ぶんぶんぶん -
エッセイ
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秋田コリス2月7日のフジTV『料理の鉄人』のテーマ食材はタカアシガニだった。 私はこの番組を夫と一緒に見ていた。数匹のタカアシガニ※がいる大きな水槽に鉄人と挑戦者が歩み寄り、カニを選ぶ。挑戦者がまないたに乗せたのは、脚を広げると3メートルはあるという巨大なやつだった。 私が最後にカニと名のつくものを食べたのはいつだったろう。確か昨年の夏だ。新木場の南砂町運河で釣り上げたガザミをダシにした味噌汁を食べた。それ以 前、もっとまともに「カニを食べた」いえるのはいつだったか、ということになると、もうおととしの秋になる。アメヨコで上海蟹を何匹か買ってきて、家で蒸 して食べた。いずれにしても、タカアシガニとは比べものにならないくらい小さい。 ブラウン管の中では、挑戦者がカニの甲羅をガポッと開けたところだった。 「あれくらい大きいものになると、カニにもちゃんと内蔵があることがわかるねえ」 と、妙なことに感心しながら夫に言うと、 「あれくらい大きいとミソもいっぱい詰まってるだろうなあ」 と、彼も半ば感嘆しながら言う。 |
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バニーガールのためいき |
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ぶんぶんぶん -
小説
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本田ノリコ まず、心の中に、傷を持っているということ。そして、その傷に気づかずに、静かに戸惑いという血を流し続けてい るということ。その姿は、小さな動物が、物音におびえて震えている様を思い出させる。怖がらなくていいのよ。こっちにおいで。私が抱いていてあげる。私の 手の中で、「安心して」震える動物を見て、私はいとおしさでいっぱいになる。 でも、最初にあの男を見た時は、傷ひとつない様に見えた。どちらかというと、そんなものに気づかないぐらい鈍感で、元気で、偉そうなやつなんだろうな、ぐらいに思っていた。あの男は、私の中でどうでもいい存在だったのだ。あの瞬間までは。 引っ越しをして、一人になった私は、穏やかに暮らしていた。 |
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人生が二度あれば Part2 |
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ぶんぶんぶん -
小説
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アタシ、昨日まで女だったんです。あらやだ、まだ女のときの口調になってるわ。もとい、ワシは、いやオレは、 うーんと、ボクは昨日まで女だったの。いや、女だったんでゴワす。いやいやいくらなんでも「ゴワす」はないだろう。まだ男言葉に不慣れなものでごめんなさ い。実はボク、昨日性転換手術を受けてついに男になったんだ。今日から男としての第一歩。あぁどうしよう、うれしいような悲しいような、恥ずかしいような ザマアミロのような、不安が一杯のようで希望も一杯、ドキドキしながらワクワクしてる。 |
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「向日葵」の記憶 |
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ぶんぶんぶん -
随筆
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片寄 窓吉一九四五年八月、戦争は終わった。 もの音というもの音がピタリと止んで、白く乾ききった日が何日も続いた。空はことに静かだった。 診療室の電灯のまわりを数匹のふとった蝿がとびまわっていた。 「君は、どうするんだね?」 軍医はひげをあたりながら言った。 「田舎へ帰ります」 奥の部屋から看護婦の声がした。 「ああ、東北だったね」 「はい、青森です」 「そうだ、いつだったか林檎をもらったことがあった。ありゃあうまかったなあ」 「先生ったらあのとき、両手に林檎を持って、かわるがわる噛ったりして……」 「そうそう、あんまり珍しかったもんだから……で、ご両親は?」 「元気でいると思います。田舎へ帰ればわずかですけど田畑もあるし、食べるには困らないから……」 「そうか」 「先生は?」 「おれか?」 軍医は剃刀を宙に浮かしたまま、 「おれはどうなるのかなあ……」 |
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バレリーナの孤独 |
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小説
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高柳あきら その日もいつものようにバーレッスンから始まった。時間前に各自で充分なストレッチを済ませ、すでに汗をにじま せながらバーに向かう。シニヨンからはみ出した後れ毛がしっとりと濡れている。心地よいほどに暖まった体が、柔らかくバーに沿う。バーは何人もの体を静か にうけ止めている。滑らかなピアノの音。腕は三番、足は一番にして息を吸いながらゆっくりと体を倒してゆく。そして少しずつ息を吐きながら、倒すときより も更にゆっくり体を起こす。空にそっと筆を降ろすように優しく撫でる指先。プリエから前横後ろとバットマン・タンジュ。ドゥミ・ポワントのルルヴェをして バーの手を離し五番へ。 ピアノはアップテンポに変わった。股関節から爪先までがせわしなく動く。上半身は何事もないかのように、表情はあくまでも穏やかに保つ。バーには手を添え るほどに、むしろバーなどないものと思わなければならない。どうしても意識が爪先に集中しすぎるせいかバーを握りしめてしまうと、ギシッとい微かな軌みが 注意を促してくれる。少し息が荒くなるが。決して苦しい顔は見せられない。パッセ、パ・ド・ブーレ、アッサンブレ、ジュテ、パ・ド・ブーレ—一連の動きを 右へ左へと何度も繰り返す。 |
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犬は吠えるが、バラ線越は続く。 |
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ぶんぶんぶん -
随筆
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氷見 公美恵「バラ線越え」。 千葉県の片隅、K女子寮で暮らす122人の 女子大生たちは、門限破りのことをそう呼んでいた。いや、きっと今もそう呼ばれているに違いない。 K寮の門限は致命的な 時。合コンではこれから2次会、テレビでは茶の間の話題をさらうドラマが始まろうという時間である。 その 時に1分、1秒たりも遅れてはいけない。恐るべき罰則—風呂掃除(4畳半ほどの浴槽が2つもある!)、草むしり(夏期のみ。炎天下のなか、テニスコートの周りを何周も)、夕食後の後片付け、挙げ句の果てに1ヵ月の外泊禁止が、彼女たちを待っていた。 だから122人の女子大生たちは、その2m はある金網の上、五線譜のように張られたバラ線を、毎夜毎夜越えてくるのである。 バラ線を越えるまでの手順はこうだ。外から友人に電話を入れ、門限までに帰ることができないと伝える。伝えられた友人が果たすべき役割は2つ。1・電話を 切ると素早く玄関へと走り、彼女があたかも部屋にいるように、点呼ノートにその子の名前を書く。2・彼女が登ってくるばら線に一番近い場所の非常口を開け ておく。そしてその子が部屋のドアをノックしてくれるまで、ビクビクしながら時を過ごすのである。 |
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