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| 森で |
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| ぶんぶんぶん - 小説 |
高柳あきら それは、蒼く蒼く、深い深い森の夜。月光も凍てつく森に、彼はやってきました。 もしかしたら、彼はもうずうっと前からこの森に足を運んでいたのかもしれません。でも私にはわかりませんでした。一日も早くさなぎになりたくて、夢中で樹液を吸う毎日だったのですから。 そんな夜、私はさなぎになりました。そして彼の姿に初めて気がついたのです。 夜の森に白いキャンバス。まるで月がそこだけを照らしているような、そうでなければ、キャンバスが月光を吸い込んでいるかのようでした。 彼はぐるっと一回り、森を見渡しました。もちろん私に気づくはずなどありません。広い森の中のちっぽけな私。手を動かすことも足を動かすこともできない、私はさなぎ。 彼はキャンバスの前で大きく深呼吸をしました。少しだけ袖をまくった腕をうんと伸ばして。森の新鮮な空気がすべて、彼に向けてすがすがしい流れをつくります。(私のなんともあやふやな彼への思いを乗せて!) 彼は描き続けます。繊細で力強い動きで。私といえば、時のたつのも忘れ、その動きをじっと眺めていました。(じっとしていることしかできないのですが。)あまりにも美しくて夢のようなこの夜の風景に酔いしれて。 彼の背中から見え隠れするキャンパスに描かれた森は、ここに存在する森に溶けていきます。(でもいくら彼が忠実に描いてもいても、完璧に森に隠れたりはしませんでした。月の光が少しばかりホワイトを効かせすきてしまったから!)キャンバスが森にほとんど溶けてしまうと、彼は踊る森と月の妖精。 彼はいつものように森を描き終わると、筆やキャンバスを片付け始めました。そして私はそれを合図に、彼におやすみなさいをしました。いつの間にか、それが習慣になっていたのです。 彼は少し早足で、こちらへ歩いてきました。 気づいてくれたのですね。あなたのことをずうっと見ていた私に! この花にあなたは気づいたのですね。つい舞い上がってしまい、とんでもない勘違いをしてしまったことを、とても恥ずかしく思いました。誰だってすぐに分かることです。だって私はちっぽけな虫。あなたに気づかれるはずのない、私はさなぎ。 おやすみなさい。またここに来てくれますよね。折れた茎に花が咲くことは、もう二度とないかもしれないけれど。 |

