火曜日, 07.09.2010


エッセイ
高級食品るさんちまん PDF 印刷
ぶんぶんぶん - エッセイ

秋田コリス

2月7日のフジTV『料理の鉄人』のテーマ食材はタカアシガニだった。

 私はこの番組を夫と一緒に見ていた。数匹のタカアシガニ※がいる大きな水槽に鉄人と挑戦者が歩み寄り、カニを選ぶ。挑戦者がまないたに乗せたのは、脚を広げると3メートルはあるという巨大なやつだった。

  私が最後にカニと名のつくものを食べたのはいつだったろう。確か昨年の夏だ。新木場の南砂町運河で釣り上げたガザミをダシにした味噌汁を食べた。それ以 前、もっとまともに「カニを食べた」いえるのはいつだったか、ということになると、もうおととしの秋になる。アメヨコで上海蟹を何匹か買ってきて、家で蒸 して食べた。いずれにしても、タカアシガニとは比べものにならないくらい小さい。

 ブラウン管の中では、挑戦者がカニの甲羅をガポッと開けたところだった。

 「あれくらい大きいものになると、カニにもちゃんと内蔵があることがわかるねえ」

と、妙なことに感心しながら夫に言うと、

 「あれくらい大きいとミソもいっぱい詰まってるだろうなあ」

と、彼も半ば感嘆しながら言う。

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ソフトクリームを食べる男の談話 PDF 印刷
ぶんぶんぶん - エッセイ

竹屋沙緒竹

 イタリア映画を見ていたら、背広姿のダンディな初老の男2人が山盛りのソフトクリームにしゃぶりつきながら繁華街を歩いているシ−ンがあった。日本でいえば、さしずめ三船敏郎と三国連太郎あたりが駅前商店街をじゃれあいながら、てんこ盛りのベリーソースがけバニラアイスクリームを口のまわりにいっぱいつけてかぶりついている、といった感じだろうか。

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猫的な女 PDF 印刷
ぶんぶんぶん - エッセイ

綾部貴子

 以前、数人で飲みに行ったとき、誰々を動物にたとえるとなんになるか、という話になった。

 最初は共通の知り合いのことなどを、ああでもないこうでもないと話していたのだが、次第に自分たちはどうかということになった。

 「あんたはヤギだ」「あんたの歯の出具合はリスだ」などと言い合っているうち、一緒にいたある女の子に話が向いた。

 「自分は猫だと思うわ」

 彼女がそう言った時、一同が沈黙した。あまりに意外な言葉だったのだ。

 気まずい雰囲気に、彼女はあきらかに傷ついたようで、「えー、そうかしら、私、猫じゃないかしら」と繰り返していたが、誰も否定も肯定もできなかった。

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飯田橋むかしむかし PDF 印刷
ぶんぶんぶん - エッセイ

茂木益雄

 つくづくと東京都千代田区飯田橋に生まれてよかったと思っているこのごろです。

 親父は新潟出身、おふくろは東京生まれ。そして当然のことながら武士でもない、公方でもない。百姓生まれ、職人育ちであったようです。この間に生まれた「立派な」子供は、お膝元・麹町の生まれ育ちです(特別な意味なし)。

 しかし、山手でもない下町でもないこの飯田橋に生まれ育って、本当に幸せをいま感じとっているのも事実なのです。少々皮肉を含めて、いま千代田区に生まれ育ち、学校へ行って、結婚して子供を育て、その上にこの地で仕事をし続けて六十数年、こんな幸せなやつがこの千代田区にいま何人いるのだろうか、本当に数えてみたい気がします。

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a tempo− ピアノの想い PDF 印刷
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高柳あきら

 あなたの指がppで降りるとき、わたしはそっと響き出します。その瞬間を本当はいつも待ち望んでいるなんてことは絶対ばれないようにそっと。それはとてもとても心地よく、柔らかなメロディが始まるとともに、その中にわたしはゆっくりと溶けてゆきます。

 あなたはいつもしゃんと背筋を伸ばしてわたしと向かい合い、曇りのない視線をわたしに注ぎます。もしかしたらあなたは自分の指の動きを追っているだけなのかもしれないけれど。だけどわたしはそんなあなたに応えるべく、求められたメロディを響かせるのです。まるできつつきのくちばしの動きに合わせて、森中の木々が規則正しく響き合うように。この喜びはとても言葉では言い表わせません。うっとりしすぎて、我を忘れてしまいそうになることだってあるのです。

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